上肢運動に関与する肩関節・肩甲帯運動の特徴と臨床応用

Characteristics and clinical applications of shoulder joint and scapular movements related to upper limb movement

2017-09-25

2017-09-25

本研究の目的は、上肢運動に関連する肩関節・肩甲帯運動の正常メカニズムを明らかにすること、および臨床における上肢挙上時の肩甲帯運動の代償運動メカニズムの特徴を解明することで肩関節疾患のリハビリテーションに役立てることである。第1章では、肩関節疾患の疫学的調査をまとめた。加えて、運動連鎖の概念と下肢の運動連鎖に関する研究を紹介し、上肢の運動連鎖に関する現状について整理した。更に運動療法の効果が期待される広範囲腱板断裂(MRCT)に焦点を当て、これまでの研究報告をまとめた。　第2章と第3章では、肩関節屈曲と外転時の肩甲骨の運動学的な相違を明確にすることを目的とした。第2章では、肩関節屈曲と外転時の肩甲帯運動を理解するために測定範囲を拡大して検討することにした。肩関節に既往歴のない健常男性7名(平均年齢は31.2±6.2歳、平均身長は177.4±7.7cm、平均体重は72.7±12.5kg)を対象とした。肩甲帯の各骨指標の移動方向、移動距離を分析した。その結果、屈曲と外転間で肩甲骨上方回旋角度に相違はないが、上方回旋の構築様式に相違があることを示した。　第3章では、第2章で明確化した肩関節屈曲と外転時の肩甲帯動態の相違と肩甲帯周囲筋との関連性について検討を行った。神経学的、整形外科学的に問題のない健常男性8名(平均年齢30.3±7.1歳、平均身長175.5±7.9cm、平均体重73.6±9.4kg)を対象とした。その結果、0°～120°の範囲で肩関節屈曲と外転における肩甲骨上方回旋の運動様式の相違と肩甲帯周囲筋の作用との関連性について解剖学的、運動学的解釈が得られる結果となった。　第4章と第5章では、上肢の運動連鎖に関するメカニズムの解明を目的とした。第4章では肩関節と体幹、第5章では前腕肢位と肩関節との関連性について検討した。前者では上肢挙上角度増加に伴い、運動側外腹斜筋の筋活動が有意に増加した。対象者は第4章で神経学的、整形外科学的に問題のない健常男性7名（平均年齢29.4±4.7歳）、第5章で肩・肘関節の可動域に制限のない健常男性6名(平均年齢32.2±7.2歳)とした。後者では前腕回内位での肩関節外旋が肩甲上腕関節運動に与える影響が大きく、回外では反対に影響が少ないことを指摘した。肩関節の運動機能低下がある場合、主要な関節以外の隣接する関節に対する評価も重要であることを見出すことが出来た。　第6章では、MRCT群（11名15肩、平均年齢75.1歳（範囲70－86歳）、全例上肢挙上が120°以上可能）と腱板断裂を認めなかった健常高齢者群（16名16肩、平均年齢71.9歳 (範囲60–81歳）)を対象とし、上肢挙上時の肩甲骨の3次元動態を比較した。その結果、MRCT群は健常高齢者群と比較して上肢挙上30°～100°の範囲で有意に高い肩甲骨上方回旋を呈していた。これは腱板機能の喪失によって生じた上肢挙上トルクの減少を肩甲骨運動によって代償したことを示唆している。これらの結果は広範囲腱板断裂症例に対する上肢挙上を改善させるためのリハビリテーションアプローチに役立つと考える。　これらの研究を通して上肢挙上時の肩甲帯運動の特徴と上肢に関する運動連鎖の一端を解明することができた。そしてMRCTにおける上肢挙上時の肩甲骨の代償運動の特徴を示すことができた。第7章では、本研究結果を基に肩関節疾患に対するリハビリテーションへの示唆と本研究の意義、今後の課題について提示した。

博士（学術）

京都工芸繊維大学

14303甲第842号

http://hdl.handle.net/10212/2418

jpn

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Thesis or Dissertation

Thesis